労働関係でよく問題となる事項について,Q&Aでまとめました。
(なお,Q&Aにおける事例及び法的見解は一般論であり個々の具体的な事件に妥当しない場合もございますのでご了承ください。)
Q会社による残業代のカット(いわゆるサービス残業)は許されるのですか?
A基本的には許されません。いくら会社が業績不振で経営状況が悪化しているとしても,残業代や法定の割増賃金を支払わないことは違法であると考えられます。
Q従業員が会社に損害を与えた場合,会社は罰金や弁償等の名目で給与からその分を控除・天引きすることはできるのですか?
A法令上,賃金の全額払いの原則により,会社としては勝手に控除・天引き(相殺)することは基本的には許されません。
但し,労使協定で賃金からの控除が認められているような場合には許されることもあります。
Q有給休暇を取ろうとすると,休暇の理由を聞かれ,理由や時期次第では休暇が認められなかったりするのですが,そのようなことは許されるのでしょうか?
A有給休暇を取りどのように利用するかは,労働者の自由であり,特段の事情なく会社が休暇の理由を聞くことには問題があるといえます。そして,会社が理由次第で休暇を認めないことは許されません。
但し,休暇により会社の事業運営に支障が出るような場合には,会社は他の日に変えて休暇を与えることができます。
Q会社から「うちの会社は有給休暇制度はない」と説明されているのですが,このような会社では有給休暇を取ることができないのでしょうか?
A法律上の条件(6か月以上継続勤務且つ全労働日の8割以上出勤)を満たせば会社の規模や業種に関わらず有給休暇を取る権利は発生します。
会社がこれを認めないのは違法といえます。
Q会社が労働者に対して行う解雇の種類はどのようなものがあり,どのような場合に解雇できるのですか?
A一般的には,普通解雇,懲戒解雇,整理解雇(いわゆるリストラ)に分類できます。
普通解雇は,一般的には,労働者が労務の提供を十分に果たせない場合(成績不良等)になされる解雇のことをいいます。
懲戒解雇は,一般的には,労働者に何かしらの非違行為があり,そのことに対する懲戒処分としてなされる解雇のことをいいます。
整理解雇は,一般的には,会社の経営不振等の理由から人件費の削減等を目的としてなされる解雇のことをいいます。
いずれの解雇についても,会社が解雇しようとする場合には一定の要件が必要となります。解雇に関する法令上の制限として, 労働基準法上「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されています。
個々の解雇が有効か否かは上記基準により具体的に判断されることになります。
Q成績不良(例えば営業ノルマの不達成)を理由として解雇が許されるのはどういう場合ですか?
A 単に成績不良であるとかノルマが達成できていないというのみでの解雇は認められ難いと考えられます。
すなわち,会社としては,成績不良の労働者に対し,指導や教育,配置転換等の措置を採るべきでしょうし,成績不良改善のための時間的猶予を与えるべきだと考えられます。
そのうえで,成績不良が改善されずその不良が著しく,今後も改善・向上の見込みがないといえるような場合に,解雇が認められる場合もあると考えられます。
Q社内不倫を理由に解雇されました。これは仕方が無いのでしょうか?
A社内不倫に関しては,社内秩序や社内風紀等への影響が問題となります。
社内不倫により社内秩序や社内風紀等への影響により企業運営に具体的影響を与えたような場合には解雇が認められる場合もあるでしょうが,単に社内で不倫したこと自体による解雇は認められない可能性が高いと言えます。
Q勤務態度や成績に問題なく勤務していたのですが,経営・業績不振という会社側の事情を理由として,会社から解雇を言い渡されました。このようなリストラは許されるのでしょうか?
A整理解雇が認められるためには,以下の4要件が必要と考えられています。
すわなち,①整理解雇の必要性(人件費削減の必要性)②会社による整理解雇を回避するための努力(賃金引下げや希望退職者の募集等を事前に行ったか)③労働組合や労働者に対する説得,協議(事前に十分に行われたか)④整理解雇の基準の合理性(解雇される者の選定基準が公平であること)の4要件を満たす必要があります。
この4要件を満たしていない場合には整理解雇は認められない可能性が高いと言えます。
Q試用期間の後に,本採用について拒否されてしまいました。その理由もはっきりしません。試用期間なので仕方が無いのでしょうか?
Aこのような場合も基本的には解雇と同様に考えます。
そして,本採用拒否について客観的な合理的理由がなければ本採用拒否は認められないということになると考えられます。
Q期間従業員として働いていましたが,期間満了の際に契約が更新されませんでした。期間従業員なので仕方が無いのでしょうか?
Aいわゆる雇止めの問題です。基本的には,契約を更新するか否かは会社が決めることができるのですが,何度も契約更新されているような場合には,特段の事情がない限り会社は更新を拒絶できないと考えられています。
Qセクハラで悩んでいます。
Aセクハラ行為も違法行為ですので,加害者は損害賠償責任を負う可能性があります。
また,加害者のみならず,そのようなセクハラ行為を許す職場環境を放置した事業主にも責任が生じる場合があります。
すなわち,法令上,事業主は,職場においてセクハラ行為等により働きにくくなるようなことにならないよう相談体制や社内の啓発等の必要な管理措置を採らなければならないと規定されているのです。
Q会社を辞めたいのですが,会社が辞めさせてくれません。どうすれば会社を辞めることができるのでしょうか?
A会社から退職を承認してもらえなくとも,退職の意思表示(辞表等の文書でも口頭でもよい)から2週間を経過すれば会社との雇用契約は終了します。2週間の予告期間は必要ということになります。
そして,会社が退職に必要な手続を採らず,再就職等に支障が生じ損害が発生したような場合には,会社側がその損害の賠償責任を負うこともあります。
もっとも,退職の意思表示をしてすぐに会社を退職したような場合,つまり2週間の予告期間を置かなかったような場合には,それにより生じた会社の損害を賠償しなければならない責任が発生する場合があります。
Q労働問題について弁護士に相談すべきなのでしょうか?
A労働問題については,現実の社会の常識と法令上の規制との間に差がある分野といえます。
したがって,使用者側も労働者側も法令を把握することは非常に重要であることと考えられます。
もし労働問題で悩んでおられる場合には,使用者側の方も労働者の方もまずは弁護士に相談すべきだと思います。